暴走機関車SP号

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【超ネタバレ感想】『炎環・黒雪賦』がめっちゃ好き~解釈は後からつけるもの~【鎌倉時代】

こんにちはっ!
最近『鎌倉殿の13人』にハマってるよーん

そしてとうとう入手いたしました! 永井路子氏の『炎環』です! 本屋3軒回ってようやく見つけましたw

「炎環」永井路子 表紙

「炎環」永井路子 表紙


激動の鎌倉時代を、いろんな人物の視点で書いてあるショートな短編長編だ!
わたくしは読みかけだが、『黒雪賦』めっちゃ気に入ったので、気持ちが新鮮なうちに書こうと思ふ! タイトルにもあるけど、スーパーネタバレなので気を付けてね。歴史にネタバレもへったくれもあるのか?という気がするが

「黒雪賦」を読んで~解釈は後からつけるもの~

主人公は梶原景時。この人がチクリ魔なせいで義経は死んだ、とか嫌われがちな人物。しかし、後世の肩書こそあてにならんものはないのである。ドラマの曽我兄弟の顛末がそれを教えてくれたではないですか!
そう、梶原景時は、誰よりも源頼朝の心を理解していたのだ! 自分の隣に並び立ち得る者への嫉妬――たとえば法皇さまに気に入られた義経とかね――を誰よりも理解していたのだ。そして頼朝の代弁者になっていた。

さあ、百聞は一見に如かずだ。とりあえず見てほしい。
息子、梶原景季とこんな会話をするシーンだ。

景時「九郎殿、蒲殿、安田父子、広常、重忠……これらを嫌われたのは御所なのだ。わしはそれに従ったまでのことだ。(中略)御所は疑り深いお方だった。しかもそれを明らさまには口に出されぬのだ。わしはそれを知って代りに言い、代りに行ったにすぎぬ。(中略)御所がわしにこうせいと仰せられまわけではない。いやむしろ、御所はいつもわしのする事に気が進まぬながら同意する、というふりをされた」

……はい。これが梶原景時だ。この後梶原一族は京へ向かう途中に死ぬ。景季はとても悔しがりましたよ。なぜ、ここまでやる必要があるのか? 讒言者と誹りを受けてまで、なぜ父は汚れ役を引き受けたのか? そんな景季の疑問に、景時はこう答える。

景時「景季、そうではない。ただわしは御所に気に入られようとしてそれをしたのではない。それが武家の世を創るためにしなければならないことだったからだ」

うぐ……っ!
結果的に鎌倉幕府武家の世の先駆けになった。結果的に、罪のない武士が景時の声により死んだ。
そう、歴史を学ぶ我々は物語の結末を知っている。しかし登場人物たちは、自らの死を持って舞台を降りなければ、物語の幕が閉じることはありえない。そして、舞台を降りた後に観客席に行くことは許されないのだ。自分がヒーローか悪役かなんて、最期までわかんないんですよ。
何が言いたいかと言うと、梶原景時も生きるのに必死だったってこと。後世から、卑怯者として嫌われてる彼も、その当時は平家の世のエキストラにすぎ無かったのだ。景時が嫌いな君は歴史をわかっていない、なんて安いことを言いたいわけではないぞ。役柄の解釈はいくつあってもよいのです。


さて、筆者がめっちゃ刺さったシーンで締めよう。ラストシーンなので、ネタバレしたくない人は見ないように!

(死に際にて)かっと目を見開いた彼は、黙って雪原の眩しい拡がりに対している。
が、彼の見ているのは残り少なになった今もなお、(鎌倉軍の追手に対して)勇敢におめき叫んで死闘を繰り返している郎党たちの姿ではなかったようだ。雪原のかなたにある鎌倉幕府――自分がいのちをかけて創ったにも拘らず自分の手から抜け出してしまったそれ――いまも遥かにそりたつ鎌倉幕府の幻影を、そのとき彼はみつめていたのかもしれなかった。